本研究会について

サントリー文化財団から2015年度の研究助成を受けた本研究会の正式な研究題目は、「日本の夜の公共圏――郊外化と人口縮減の中の社交のゆくえ」ですが、端的にいうと日本の「スナック」について学術的に研究してみようという会です。人文社会科学領域においては、考えられるかぎり無駄に豪華なメンバーを集めてみました。

今後、おおむね月に1回をめどにクローズドな研究会を開催し、最終的には何らかのかたちで、スナックに関する公刊物を出すことを目指したいと考えています。可能であればシンポジウムなどの開催も出来れば、とも。微力ながらわが国の「スナック文化」振興の一翼を担えれば幸いです。

以下、サントリー文化財団へ研究助成を申請した際の書類から、研究の目的と特色について、一部抜粋・補筆して公開しておきます。

研究の目的

本研究における主要対象は、所謂、「スナック(バー)」である。最低でもNTTの電話帳登録から確定可能な10万750軒、多く見積もるなら15~6万軒が全国に存在する、このトポスは、夜ごと数十万~百万単位の人びとが「社交」を行う、いわば「夜の公共圏」である(歴史上のコーヒーハウスの公共圏としての来歴や茶の湯などを想起されたい)。

本プロジェクトでは、この「スナック」に関する研究を中軸に、様々な専門的知見と、様々な時代における「夜の公共圏」との対照から、そのあり方を明らかにする。――『社交する人間(ホモ・ソシアビリス)』に言寄せるなら、ここでは「やわらかい公共圏」の解明が目指されるのである。

スナックは、全国津々浦々どこにでもあるが、その起源・成り立ちから現状に至るまで、およそ「研究の対象」とされたことは、未だかつて、ただの一度も無い。本研究では、社会的にはおよそ真面目な検討の対象とはされて来なかった、このスナックという「夜の公共圏」・「やわらかい公共圏」の存在に光を照てることで、日本社会の「郊外/共同体」と「社交」のあり方を逆照射することを目指すものである。

研究の特色

第一に、最大の特徴として、これまで、このような形で行われた研究と呼びうるものは、一切存在せず、本研究の存在自体が文字通り、本邦初の試みである、という点が挙げられる。

第二に、歴史学、哲学、文学、美術史学、政治学、法学など分野横断的かつ重層的な専門的知見、さらには確固とした統計学的手法の駆使は、前代未聞と言って差し支えない点が挙げられる。

第三に、これは実質的な内容に関わる点であるが、本研究における「スナック」を中軸とした「日本の夜の公共圏」に関する考察は、「郊外化」と迫り来る「人口縮減」の潮流のただ中で、ひとびとの「社交」のあり方そのものを、それが繰り広げられる場所から見据える試みであり、そこから、今後のわが国の郊外/共同体一般をめぐる知的考察の生々しい基盤を構築しようとする点に、最大の特色を有するものである点が挙げられる。

なお、酒食と音曲(ex. カラオケ)は「社交」を支える重要な要素であり、日本でも、とりわけ江戸期において、「詩酒風流」が高度な洗練を誇っていたことが知られている。今日の「スナック」は、江戸期の「悪場所」的社交の遠い末裔であり、その歴史的位置と現代的意義の分析は、人文学・社会科学を横断する学際研究の非常に有効な手法といえる(歌会や句会も酒食をともなっており、かつ階級の壁を超える装置でもあったし、その遙か彼方には文壇バーも存在する)。

第一期(2015-16年)研究会 報告者と報告タイトル(報告者の所属は当時のもの)

※研究会ブログに移動します

第1回(10月24日)
 「スナック研究事始め」(谷口功一・首都大学東京・教授・法哲学)

第2回(11月21日)
 「「夜の公共圏」と本居宣長」(高山大毅・駒澤大学・講師・漢文学/思想史)

第3回(12月19日)
 「近年のスナックの動向とスナックにまつわるデータ」(ゲスト講師:平本精龍様)

第4回(01月26日)
 「「社交」とスナックをめぐる雑感」(苅部直・東京大学・教授・日本政治思想史)

第5回(02月20日)
 「夜遊びの適正化と平成26年風営法改正」(亀井源太郎・慶應義塾大学・教授・刑法)

第6回(04月30日)
 「スナックと行政―規制対象としての実態と振興対象としての可能性」(伊藤正次・首都大学東京・教授・行政学)
 「スナック・風適法に関する人権論からの一考察」(宍戸常寿・東京大学・教授・憲法学/情報法)

第7回(06月18日)
 「「会」の時代-あるべき社交の形をもとめて」(河野有理・首都大学東京・教授・日本政治思想史)
 「日本の宴席と文化」(井田太郎・近畿大学・准教授・日本文学)

第8回(07月30日)
 「スナックの政治経済学—「夜の公共圏」の立地と機能」(荒井紀一郎・首都大学東京・准教授・政治学)